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クラシック・イン・ザ・ナイト

 スターズ・オン45というオランダのグループが1981年にリリースした「ショッキング・ビートルズ45」のヒットに触発されて、ビートルズだとかスウィングだとかムード・ミュージックとか、曲のさわりの部分だけをつなげたメドレーもののレコードがブームとなりました。もちろん、そのようなタイプのメドレー曲作品はそれ以前からあって、だいぶ前に紹介した「Disco Samba」や、ダリダの「ジェネレーション'78」なんかもそうですし、日本でも1977年に「演歌チャンチャカチャン」なるキワモノ曲がブームになったことを覚えている方もいるんではないでしょうか。ただ、1981年のメドレー・ブームが過去と違ったのはクラシックの世界に飛び火して、ウィリアム・モーツィング指揮のネオン・フィルハーモニック・オーケストラによる「ショッキング・クラシック45 / Switched On Classics」と、ルイス・クラーク指揮のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団による「クラシック・オン45 / Hooked on Classics」の2作品がヒット・チャートの上位に食い込んだことです。ウィリアム・モーツィングはオーストラリアの指揮者でオーストラリアのTV番組や映画の音楽を手がけ、ポピュラーからクラシックまで多くの作品を残している人、ルイス・クラークはロック・グループ「エレクトリック・ライト・オーケストラ」のアレンジャーだったようですね。
 この2作品はいずれも1981年の録音で、どちらが先なのかよくわかりませんが(ネオン・フィルの方?)、取り上げた曲と曲のつなぎ方は同じで、ネオン・フィルの方がオーケストラの編成が小さく、ドラムスやエレキ・ギターなどが強調されたロック色の濃い演奏でした。両方ともシングル盤をリリースしていて、曲の前半をA面に配し、途中でフェイド・アウトさせて、その部分から先はB面に収録、という構成まで同じだったような記憶があります。結果として、本格的なクラシックのオーケストラ演奏を主体にした「フックト・オン」が、その後もスウィングとかインストゥルメンタルなどにもバリエーションを広げたシリーズものとしてひとつのジャンルを息長く築いていくことになったのはご存知のことでしょう。

●ショッキング・クラシック45(Switched On Classics)

●Hooked on Classics Part 1 & 2

 同じ年にフランスからも、この”Switched On Classics / Hooked on Classics"に触発されて”KLASSIKS IN THE NIGHT”というシングル盤がリリースされていました。アレンジと指揮はF. Burtという人で、メトロポリタン・フィルハーモニック・オーケストラの演奏ということになってますが、ご存知のとおりF. Burtはルフェーヴルのエイリアス・ネーム(別名)ですね。メトロポリタン・フィルハーモニック・オーケストラというのは、この曲のレコーディングのために編成されたものではないかと思います。この作品は日本では共同通信社から発売されていた「FMfan別冊 ニュー・イージー・リスニングの本」というムック本の中で、ルフェーヴルはフランスではこんなこともやってるんですよ、という感じで紹介されていていましたのでご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

内容は以下の通りです。
 
A面-----------
Piano Concerto No.1 in B Flat Minor - Peter Ilyich Tchaikovsky / ピアノ協奏曲第1番 第1楽章
Flight of the Bumblebee - Rimsky Korsakov / 熊蜂の飛行
Symphony No.40 G Minor - Wolfgang Amadeus Mozart / 交響曲第40番 第1楽章
Piano Concerto No.3 C Minor - Ludwig van Beethoven / ピアノ協奏曲第3番 第3楽章
Ouverture de Guillaume Tell : Finale - Gioachino Antonio Rossini / スイス軍の行進
Voi Che Sapete Che Cosa è Amor - Wolfgang Amadeus Mozart / 恋とはどんなものかしら
Fantasy Overture "Romeo and Juliet" - Peter Ilyich Tchaikovsky / ロミオとジュリエット序曲
Hallelujah Chorus from Messiah - Georg Friedrich Händel / メサイヤよりハレルヤ
Orchestersuite in h-Moll “Badinerie” - Johann Sebastian Bach / 管弦楽組曲第2番 バディヌリ
Prelude to Act1 from opera "Carmen" - Georges Bizet / カルメン序曲
 
B面-----------
Toccata und Fuge in d-Moll - Johann Sebastian Bach / トッカータとフーガ ニ短調
Piano Concerto No.20 D-minor - Wolfgang Amadeus Mozart / ピアノ協奏曲 第20番 K466 第1楽章
Symphony No. 9 in D Minor - Ludwig van Beethoven / 交響曲第9番 第4楽章
Piano Concerto A Moll - Robert Schumann / ピアノ協奏曲 イ短調 第1楽章
Piano Sonata No.16 in C Major - Wolfgang Amadeus Mozart / ピアノソナタ第16番 第1楽章
24 Caprices for Solo Violin - Niccolò Paganini / 24の奇想曲 第24番
Symphony No.9 in E Minor - Antonín Leopold Dvořák / 交響曲「新世界」第4楽章

●KLASSIKS IN THE NIGHT

 A面は”Hooked on"を意識して(真似して)シングル片面で完結できるようなアレンジを施した作品で、Hooked onにはなかったベートーベンのピアノ協奏曲とバッハの管弦楽組曲を新たに組み入れています。B面はルフェーヴルの「トッカータとフーガ」のシンセサイザーで演奏した冒頭部分をそのまま使い、最後の「新世界」を除いて、ルフェーヴルがこれまで"Soul Symphonies"で取り上げた作品を取り上げました。
 F. Burtは、ルフェーヴルがリズムを強調したような新しいサウンドの曲を発表する時に使用するエイリアス・ネームで「フランス人の中にも、外国人の作曲者による曲だとわかると『もしかしたらいい曲かもしれない』と思って聞いてくれる人がいるから名前を使い分けている」と1984年の来日時に、ゲストで招かれたラジオ番組(ABCラジオ「おはようパーソナリティ道上洋三です」)で本人が語っていました。プゥルセルとの共作曲の中にも何曲かあるほか、ルフェーヴルのアルバムにも「マイアミの風」「時の果てるまで」といった作品で、その名が使われています。F. Burtの"F"は、古いレコードを見ると”Frank”と書かれているものがああります。まあ、レイモン・ルフェーヴルという名は、フランスではテレビ音楽番組の伴奏指揮者かルイ・ド・フュネスの映画作曲者として知られているので、そういう変名を使った背景もなんとなくわかります。