ルフェーヴルのファンに「好きなアルバムは何ですか?」と聞くと、1973年から75年に制作された『幻想のアリア』『エマニエル夫人』『エデンの少女』といった作品を挙げる人が多いようです。オーディオ技術の進化とともに新しいサウンドが生まれ、様々なアーティストが美しいメロディを次々と世に送り出して行った、ディスコ・サウンドによって荒らされてしまう直前の1970年代中盤のフレンチ・ポップス。毎週日曜日のゴールデン・タイムに生放送されていたTVの音楽番組をプロデュースしていたルフェーヴルは、様々な実力派歌手たちの歌い方や歌詞の表現方法の影響を受け、また、歌手たちが歌うために持ってきた凄腕アレンジャーによる伴奏譜面に触発されて、自身も新しいサウンドを生み出していったことでしょう。言ってみれば、ルフェーヴルのこれらのアルバムは、当時のフランス音楽の粋が詰め込まれているわけで、ファンがお気に入りのアルバムとして選ぶのも当然の話なのです。   さて、そんな個性的で魅力的な作品がひしめき合う中の1曲「アニマ・ミア」。この曲はイタリアの"I Cugini Di Campagna / イ・クージニ・ディ・カンパーニャ「いなかのいとこたち」)"というバンドが1974年に放ったヒット曲です。

●イ・クージニ・ディ・カンパーニャ "Anima Mia"

 おそらく、この映像での演奏がオリジナルで、すぐに、ルフェーヴルの演奏で聴き慣れている人が聞いたらびっくりのギンギンにエレキ・ギターを鳴らしているサウンドのバージョンも発表されています。

●イ・クージニ・ディ・カンパーニャ "Anima Mia"

 ボーカルを担当するフラビオ・ポーリン"Flavio Paulin"のハイ・トーン・ボイスがなんともいい味出しているこの曲は、音楽配信のiTunesで検索すると、I Cugini Di Campagna名義で何回もレコーディングした形跡があり、それだけフラビオ・ポーリンとしても思入れのある曲なのだと推測されます。まあ、曲名が「Anima Mia / 私の魂」ですからね。
 これをダリダはサビの部分を最初に持ってきて、さらにそのサビを最後に3回繰り返して、最後はフェイド・アウト(だんだん音が小さくなって終わる)という構成に変えて歌います。ダリダのマネージャーであるオルランドは「アニマ・ミア〜」と歌われる一番の盛り上がり部分を全面に押し、アカペラで歌う部分との対比を強調することでダリダとしての個性が発揮できると判断したのでしょう。

●ダリダ "Anima Mia"

 さて、ルフェーヴル盤ですが、イ・クージニ・ディ・カンパーニャのオリジナル盤とも、ダリダ盤とも違う構成にしました。 チェンバロを使った厳かなイントロ4小節に続いて「アニマ・ミア〜」と歌われる部分をホルンで聞かせるのですが、これはサビとしての扱いではなく、次の旋律への導入部のような雰囲気を出しています。(〜00:45) 続く第一旋律では、フルートのデュオにチェンバロとヴァイオリンのトレモロがかぶさり、ホルンの音色を受けてストリングスのアンサンブルでメロディの美しさを強調。(〜01:36) そして続く「アニマ・ミア〜」の部分ではドラムスが入り、金管楽器がメロディを奏でるのですが、ルフェーヴルはここをこの曲のサビとして扱うことなく、最後の部分に向かって盛り上げていくブリッジのような扱いにしています。(〜02:03) そして最後にストリングスで奏でられる「アニマ・ミア〜」の部分では、オリジナルのメロディをルフェーヴル流に変えてしまい、しかも前半の8小節と後半の8小節でメロディもコードも変え、印象的な余韻を残す終曲部を迎えます。   まず、ダリダ盤のアレンジが素晴らしく、ここで大きく曲の印象が変わりました。おそらくルフェーヴルも、この影響を受けたのでしょう、そして、オリジナルの曲のメロディを引き立たせる裏旋律を作るといった職人技的なアレンジを施すのだけではなく、曲に起承転結の流れを生み出すことで曲に奥行きや深さを加えました。フランス音楽が得意とするドラマ性とメロディ+裏メロディの扱い方の極みがここにあるのです。

●レイモン・ルフェーヴル・グランド・オーケストラ "Anima Mia"