レイモン・ルフェーヴルは日本の販売窓口がロンドンレコード(現ユニバーサル・ミュージック)だった頃、香坂みゆき&細川俊之のデュエット曲「危険な関係」、松山千春の「シバの女王」で日本人歌手にオーケストラの編曲と伴奏を提供しています。そしてビクター時代になると、こんどはレイモンの次男ジャン・ミシェルが日本人歌手にオーケストラの編曲と伴奏を提供することになります。奥田晶子さんはそんな日本人歌手のひとりで、彼女の2枚目のアルバム『済んだ泉のほとりで』は、ジャン・ミシェルが「私の孤独」「百万本のバラ」「哀しみの終わりに」など13曲の編曲を提供し、1994年にパリでレコーディングした作品です。残念ながら現在は廃盤となってますが、父親ゆずりのフランスの気品を感じる繊細で優雅で重厚な演奏とアレンジは奥田さんの歌を見事に引き立てています。
奥田晶子さんは1990年に神戸、1991年に名古屋で開かれた日本シャンソンコンクールで2年連続グランプリを受賞しており、デビュー10年目となる1992年にビクターから『想い出の扉』というタイトルのCDを発表。以降、移籍後のドリーム21時代を合わせ8枚のCDをリリースし、名古屋にあるCafé Concert エルムを初めとした全国各地にあるシャンソニエや、南青山MANDALA、新宿ミノートル2、江古田マーキーなどでコンサートを重ねてきました。
シャンソン歌手「奥田晶子」の日記ブログ:Crystal Caffe
実は5年ほどの間、病のため歌手活動を一時停止し出身地である広島に戻られ療養を続けてこられた奥田さんですが、この2024年3月14日に、広島の中心部、平和大通りに面したクリスタルプラザの最上階19階にあるライブ・ハウス「Live Juke」で「奥田晶子 Again シャンソンライブ」と題して復帰コンサートを開催。奥田さんがマイクを持つのは6年ぶり近いということですが、そのブランクを感じさせない歌唱でお客様を魅了してくれました。
山本優一郞さん(Bass)、森川泰介さん(Dr.)、岸本善美さん(Syn.)、新田佳則さん(p.f.)という4人のゴージャスな伴奏で、山田ななさん、具志堅ナヲさんの歌が披露されたのに続いて奥田さんが登場。第一部では「魅惑の宵」「枯れ木の上に」「モン・デュー」など、第二部では「人々の言うように」「愛をもう一度」「ボン・ボヤージュ」など、合わせて16曲を歌いきりました。5年間のブランクというのは歌手にとっては大きなハンディですし、2時間近いステージは精神的にきつかったと思いますが、彼女の底力をまざまざと見せつけられた思いです。特に、第一部の終わりに歌われた「群衆」は男と女の出逢いと別れのドラマをからだ全体で表現していて、他のシャンソン歌手では得られない独自の世界を築き上げていました。
コンサートの終わりには、奥田晶子さんの後援会会長で、コミュニティFM局のFMはつかいちで番組を持っていらっしゃる、奥田晶子さんとは中学時代に学級委員をいっしょに務められたという半明晃二(はんみょう こうじ)さんから、中学時代の話とこれから活躍の場を広げてもらいたいというお話があり、続いてビッグ・ゲストの紹介がありました。高嶋弘之さんです。
実は、奥田さんは1年くらい前に音楽評論家の宮本啓(みやもとひらく)さんのご紹介でお会いになっていて、その際に「広島でコンサートするのなら必ず行きますよ」とのお約束を果たされての登場でした。得意の話術で奥田さんとの出会いの際の話やコンサートを受けての彼女への期待を語っておられました。
高嶋さんと言えば、東芝EMIでビートルズの日本での売り込みで活躍された方として有名ですが、実は高嶋さんの本領はフランスEMI(パテ・マルコーニ)系のアーティストのプロデュースで、エンリコ・マシアス、アダモ、そしてフランク・プゥルセルなどを手がけてこられました。特にイージー・リスニング・ファンの間では、フランク・プゥルセルの「赤ちゃんのための名曲集」という当時としては超画期的な企画アルバムを世に送り出したことで知られています。コンサート後の立ち話でその話を振ると「(当時、レコードを売るなら最低限でも売れて欲しい)3,000枚さえも売れるわけがない、と会議で猛反対を受けたものの大ベストセラーとなった。そのことをもっと注目して欲しいね。」とおっしゃっていました。また、キングからフランスのバークレーとロンドン(英デッカ)の2つのレーベルを引き継いで作られたロンドンレコード株式会社の副社長としてご活躍されていた時代もあり「パリまで行ってルフェーヴルに会いに行ったことがある。」という話も聞かせていただきました。きっと、フランスの音楽やイージー・リスニングに関するいろいろな秘話をお持ちだと思います。
広島でのコンサートの2日後、16日には名古屋にあるシャンソニエ、エルムでも6年ぶりにコンサートがありました。こちらでは第一部で「それぞれのテーブル」「逢い引き」など5曲、第二部では「十八歳の彼」「悲しみのヴェニス」など6曲を披露。奥田さんがここエルムでコンサートをおこなっていた際にお越しいただいていたお客さまも多数ご来場。変わらぬ歌声を楽しんでおられました。
この日はホーム・グラウンドとも言える場所でのコンサートであったこともあって、奥田さんはリラックスした雰囲気で歌っていたのが印象的でした。今回の復活コンサートをバネに、これからもご活躍されていくことでしょう。