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 カトリーヌ・ド・ヌーブの声をダニエル・リカーリが担当した名作

Universal Music
USM Japan
UICY-15611/2
release:2017.9.20
P. 1964

Les Parapluies de Cherbourg

 またひとり、フランス音楽史に名を残した巨匠が亡くなりました。追悼の意を込めまして、この名作を取り上げます。
 一般的なミュージカル作品が登場人物の心情や意志を歌にして独唱/合唱するような曲を軸になっているのに対して、普通の話し言葉の歌だけで物語が進行するというのが、この映画の一番のポイントでしょう。しかも、先に音楽を録って、それに役者が演技をつけ、それを映像として構成していくという手法です。よほど事前に画面の流れと曲の構成についてしっかり練られていないと、「ジュヌヴィエーヴの歌のあとにエムリー夫人に画面を切り替えるのに、あと2章節分の間が欲しかった…」といったことになるわけで、当時、この手法があまりに斬新すぎて、そのあたりのイメージが全く見えてこない周囲の関係者から猛反対されていた、というのも当然と言えば当然でしょう。 
 それと、役者たちは歌手の歌に合わせて演技するわけですから、歌手の力量によっては役者は実力を発揮できない危険性があったわけですし、歌に対して違和感がある演技だったら観ている人を映画の世界に引き込むことはできなかったはずです。そんな状況での、ほぼ新人と言ってよいダニエル・リカーリとカトリーヌ・ドヌーヴの起用と成功は、やはり天才たちのなせる技なのだろうなと思います。そんなことをいろいろ考えながら、もう一度この作品を見直すと、また、新たな発見があるでしょう。
 この作品のDVDをお買い求めになる方も、こちらのCDもお買い求めになることをお勧めします。ほぼ全ての曲が収められており、さらに対訳つきですから、字幕では簡略化されてしまっている重要な表現も確認することができます。 (2019/01/27)
 
<以下、映画の最後のシーンなので、知りたくない人は読まないでください。>
 映画の最後の、ジュヌヴィエーヴがパリの遙か南のリヨンの近くにあるアンジュ(映画字幕では単に「田舎」と表記)から雪降るシェルブールへと、相当な遠回りをした上でたまたま立ち寄ったガソリンスタンドが、かつての恋人ギイの店だったという場面。秋に実母を亡くしたことで喪服を着て義母の家からひとりで運転してきたというジュヌヴィエーヴが、息子フランソワのためにクリスマスツリーを飾ってある暖かい部屋で妻と子の帰りを待つギイに再会し、ギイだけはジュヌヴィエーヴの子(ギイの子でもある)の名前がフランソワーズとわかる、このわずか2分程のシーン。ひとつひとつの歌詞に込められた意味が半端なく奥深く、観る人は今のふたりの暮らしぶりや再会しての心のゆらぎを想像せずにいられません。歌詞が全て歌、吹き替え歌手による歌声、といった斬新さに目が行きがちですが、ところどころに伏線を散りばめる等、歌詞・映像のひとつひとつに込められた意図を何度か観ているうちに発見していける、そんな映画だと思います。(2019/01/27)

Disc 1

01. Generique / クレジット(インストゥルメンタル)
02. Scene du garage / ガレージのシーン
03. Devant le magasin / 店の前で
04. Chez Tante Elise / 伯母エリーズの家で
05. Dans la rue / 通りで
06. Au dancing / ダンスホールで
07. Sur le quai / 桟橋で
08. Dans le magasin de parapluies / 傘屋の中で
09. Chez Dubourg, le joaillier / デュブール宝石商の店で
10. Dans le magasin / 店の中で
11. Devant le garage / ガレージの前で
12. Chez Elise / エリーズの家で
13. A l'appartement / アパートで
14. Adieux a Elise / エリーズへの別れ
15. La gare (Guy s'en va) / 駅(ギーの出発)

Disc 2

01. Dans le magasin (Reprise) / 店の中で
02. Le dîner / ディナー
03. Récit de Cassard / カサールのプロポーズ
04. La lettre de Guy / ギイの手紙
05. Le carnaval / カーニヴァル
06. Le mariage / 結婚式
07. Retour de Guy / ギイの帰還
08. Chez Elise (Reprise) / エリーズの家で
09. Dispute au garage / ガレージ(言い争い)
10. Guy au café / カフェのギイ
11. La boite à matelots / マドロスダンスホール
12. Duo Guy-Madeleine / ギイとマドレーヌの二重唱
13. La terrasse du café / カフェのテラスで
14. La station service / ガソリンスタンドで
15. Final / フィナーレ