「イージー・リスニング名曲アルバム」と題して名曲を深掘りしていこうというこの企画。タイトルだけ掲げてなかなか書く機会がなかったのですが、以前ビクターでニニ・ロッソを担当されていた脇田さんから「ニニ・ロッソとフィリッパ・ジョルダーノが共演した”千の風になって=ソレアード”をYouTubeに上げたい」という相談を受けたこともありまして、これを1作目として書きたいと思います。イージー・リスニングのヒット曲数あれど、歌詞が付けられこれほどまでに世界中の多くの歌手に歌われた曲はないでしょう。
 ニニ・ロッソがフィリッパ・ジョルダーノとコラボした同作品は、こちらからどうぞ。また、この「イージー・リスニングの部屋」でも過去に記事が掲載されておりますのでこちらもご参照いただけましたら幸いです。

 ソレアードについて調べていくと、いろいろ興味深いエピソードを知ることができました。
 ソレアードのオリジナルは、イタリアのDaniel Sentacruz Ensemble(ダニエル・センタクルツ・アンサンブル)というバンドによる演奏によるもので、歌詞のないコーラスが入った、同じメロディを転調することもなく7回半繰り返して演奏されるというシンプルな作品。1974年にイタリアで開催された”Festivalbar '74”という音楽祭でも披露され、瞬く間に世界中に広がることとなります。このダニエル・センタクルツ・アンサンブルは、1974年にCiro Dammicco(チロ・ダッミッコ)が結成したバンドで、後に「幻想のアリア」をヒットさせることになるDario Baldan Bembo(ダリオ・バルダン・ベンボ)も作曲者として参加しているようです。
 こちらにYouTubeへのリンクを張りましたが、同じイタリアEMIから2つのバージョンが出ているようです。

 「ソレアード」は作曲者としてZachar(ザカール)の名前がクレジットされています。このザカールに似た名前の音楽家が14世紀のイタリアにいたのだそうで、その人の作品ではないかと書いているサイトもありますが、ザカールというのはダッミッコの変名のようです。実際、デビュー・アルバムには18世紀の作曲家ベートーヴェン作曲、ザカール編曲とクレジットされている「エリーゼのために」が収録されていたりします。
 実は、ダッミッコは1972年に自身のアルバム”Mittente”で”Le Rose Blu(青いバラ)”という歌を発表しています。その「青いバラ」のメロディが、「ソレアード」の基になっているようです。実際に聞いてみると、ちょっとだけメロディが違う部分がありますし、「ソレアード」に出てこないメロディもあります。
 余談ですが、この”Mittente”というアルバム、日本でも1989年にキングレコードから発売されていたようですが、その日本語解説にはダニエル・センタクルツ・アンサンブルのことには触れられていても「ソレアード」の「ソ」の字も載っていなかったのが残念です。イタリアン・ロックを紹介するシリーズの1枚だったようなので、仕方が無いか。

 イージー・リスニング界隈では、ポール・モーリア、フランク・プゥルセル、ニニ・ロッソ、パーシー・フェイス、さらには、ピエール・ポルトも幼い息子のフレデリック・ポルトのヴォカリーズを入れて録音して、それぞれ自身のアレンジや演奏のテクニックを活かした素晴らしい演奏を繰り広げています。ルフェーヴルさんにはカンツォーネ集を録音する機会などに「レコーディングして欲しい」とリクエストしたのですが、やってくれませんでした。この手のフワッとしたメロディはお好きでないようです。

 そして、イージー・リスニング界より沸いたのが世界中の歌手たちでした。1974年にドイツ人のマイケル・ホルムが自身で詞を付け”Tränen lügen nicht(涙は嘘をつかない)”として歌い欧州各国でヒットさせただけでなく、同じ年に”When a child is born”と英語歌詞をつけて歌い、この歌詞が世界中の歌手から支持されたことで、クリスマス・キャロルの仲間入りをすることになります。このマイケル・ホルム盤「ソレアード(”When a child is born”の歌詞で歌われたもの)」は、日本でもキングレコードから1975年1月に発売されました。
 でも、一番成功を収めたのは1976年の末にに英国人ジョニー・マティスが歌ったもののようで、以降、様々な歌手の方がクリスマス・キャロルとして、この歌をレコーディングしたりステージで歌ったりしています。

 フランスでミレイユ・マチューが”On ne vit pas sans se dire adieu(私たちはさよならを言わずに生きているわけではない)”と言うタイトルで1975年に歌ったことの影響なのでしょうか、今でもシャンソニエに行くと山川啓介さんの詞「もうすぐ終わるのね ふたりの砂時計 ~ 今はただ 言いましょう この愛をありがとう」という歌詞で歌われる方が多いです。この詞で最初に歌ったのは由紀さおりさんではないかと思われるのですが、山川啓介さんには申し訳ないですけど、私には”When a child is born”というイエス様のご誕生を喜ぶ歌詞の方が、このメロディには合っていると思います。
 こちら、私が好きなデミス・ルーソス盤です。

 マチューのデュレクターはおそらくマイケル・ホルムが歌った「涙は嘘をつかない」から着想を得て詞をつくったのでしょうけど、マイケル・ホルム側としては、"Tears do not lie"というタイトルと歌詞では世界進出できないと早々に判断して、他人に先を越される前に英語の歌詞に変えてレコーディングしたのでしょうね。ナイス・ジャッジメントです。
 ミレイユ・マチューの”On ne vit pas sans se dire adieu”については、朝倉ノニーさんのブログに訳も含めて詳細に記載されておりますので、ぜひ、そちらをご覧いただけたらと思います。
(2024/05/26)