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 ピアノという楽器の奥深さを再認識しつつ、クラシックから映画音楽まで楽しむ

PIANO 21
輸入元:東京エムプラス
P21 052-N

Cyprien Katsaris 111 Piano Hits

 シプリアン・カツァリス(マルセイユ出身のギリシャ系フランス人)というピアニストの名を知ったのは、彼がドイツのテルデック社に移籍して発売したベートーヴェンの交響曲第6番「田園」のピアノ独奏盤がドイツで発売されたという記事をレコード芸術誌で発見した時だった。リストが家庭でベートーベンの交響曲を手軽に楽しめるようにと(当時はレコードやラジオなど存在しなかった)全9曲をピアノ中級者向けにアレンジした、というのは知られていていたものの、グレン・グールドが第5番全曲と第6番の第1楽章を録音したLPが出ていたくらいで、「田園」の全曲録音は初めてではなかったかと思う。お堅いクラシックの評論家がこのようなアレンジ演奏ものにあまり良い評価はしないのは毎度のことで、実際そこに書かれていた評価も「意外と良い」程度(私は、そう受け取った)。海外の評論家に至っては「演奏が技巧に走りすぎ」「演奏スピードが遅い」そんな悪評だらけだった。アレンジもの大好き人間としては「評論家がこんなにコケにするのなら聴かねば」ということですぐに輸入盤を扱っている店にお願いして入手。当時、テルデックの販売権を持っていたのはキングレコードだったがキワモノすぎて日本では発売されない可能性もあったし、テルデック社自慢のダイレクト・メタル・マスタリング(DMM)によるカッティングを聴いてみたい、というオーディオ的な興味もあった。
 さっそく聴いてみるとこれがなんとも素晴らしい。ピアノ演奏の向こうにオーケストラの楽器や譜面が透けて見える。ベートーヴェンがこの曲に込めた思いまで見えるようだ。演奏のスピードも、同じく評論家から「遅い」の悪評がついていたサー・ゲオルグ・ショルティ指揮のシカゴ交響楽団の演奏(最初のレコーディングの方)とほとんど同じスピード。ピアノとオーケストラを同時に流すとそこそこシンクロしてピアノ・コンチェルト的な響きとなり何とも心地よい。のどかな田園の美しい風景が浮かんでくるようだ。アレンジものは良いアレンジャーの手にかかると本当に曲の真の姿、今までオリジナルでは見せてくれなかった魅力を見せてくれるものだ、ということを改めて感じずにはいられなかった。ムソルグスキーの「展覧会の絵」もラベルが編曲しなければ、今ほどは有名になっていなかったかもしれない。それと同じことだプゥルセルの解説も時々書いていた音楽評論家、出谷啓氏が自身の番組「でーやんの音楽横町」でカツァリスを絶賛していて「カツァリスをカツァリ(語り)尽くします」といったタイトルで特集を組んだりするなど、他の評論家とは違ってかなり押していたことを思い出す。出谷氏はその番組の中で「脚本によって演技を完璧に変える役者のような演奏者」とも述べていた。このCDを聴くとなるほどと思える。ピアノ21というレーベルはカツァリスのオリジナルのレーベルで、この5枚組にはテルデックやソニー・クラシカルの音源も収録されており、カツァリスを聴いてみたいかたはもちろん、クラシックのアレンジものが好きな方にもお勧めできる。東京エムプラスというクラシックの輸入盤を扱っている会社がオビをつけて発売しているものがタワーレコードやHMVに出荷されているので、入手はしやすい。
 
 最初の曲は、ルフェーヴルもやっている「平均律クラヴィーア曲集第1巻前奏曲第1番ハ長調」。そして次の曲が、これを伴奏にグノーがメロディを付け足した「アヴェ・マリア」。バッハが両手で弾くように作った曲を伴奏にしてさらにグノーのメロディを付加して、さらに2コーラス目は1オクターブ離れた音や和音まで加えて弾いている。もちろん、多重録音でも連弾でもない。しばらくはそのことに気付かないくらい自然で美しい演奏だ。この2曲で圧倒された後は、マントヴァーニやクレイダーマンなども取り上げている「ワルソー・コンチェルト」、ギターの弾き方をピアノで再現した「アルハンブラの思い出」、アンドレ・リュウの演奏で多くの人に知られることになった「セカンド・ワルツ」、プゥルセルが何回も録音した「威風堂々」…と、超絶技巧には聞こえない、でも実は超絶技巧な演奏が101曲。もちろん、「エリーゼのために」など純粋なピアノ曲も素晴らしい演奏。興味のある方はどうぞ。 (2015.01.11)

Disc 1

01.J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻 前奏曲第1番 ハ長調
02.グノー(グノー編):アヴェ・マリア
03.アディンセル(ギール/カツァリス編):ワルソー・コンチェルト
04.ショパン:ポロネーズ第6番変イ長調
05.シューマン:子供のためのアルバム「兵士の行進」
06.ブラームス(ムーア編):子守歌
07.タレガ(ベンソン編):アルハンブラの思い出
08.アルビノーニ(ジャゾット):アダージョ
09.ショスタコービッチ(ノアック編):ジャズ組曲第2番 ワルツ第2番
10.バルトーク:ルーマニア民俗舞曲1
11.バルトーク:ルーマニア民俗舞曲2
12.バルトーク:ルーマニア民俗舞曲3
13.バルトーク:ルーマニア民俗舞曲4
14.バルトーク:ルーマニア民俗舞曲5
15.バルトーク:ルーマニア民俗舞曲6
16.シューベルト:12の高雅なワルツ ワルツ第10番
17.ヨハン・シュトラウスⅡ世(パラフレーズ:シュット):ウィーンの森の物語
18.グルック(チェイシンズ編):バレエ音楽《オルフェウス》「メロディ」
19.マスネ(マスネ編):歌劇《タイス》「瞑想曲」
20.ショパン:練習曲 第12番ハ短調
21.カツァリス:さくらによる即興曲
22.エルガー(シュミッド編):行進曲「威風堂々」
23.ヘンデル(即興アレンジ:カツァリス):組曲第11番 サラバンド
24.C.P.E.バッハ:アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳 行進曲ニ長調
25.C.P.E.バッハ:ソルフェジエット ハ短調
26.ゴットシャルク(カツァリス編):バンジョー〜グロテスクなファンタジー、アメリカン・スケッチ

Disc 2

01.リスト:ハンガリー狂詩曲第2番
02.ハイドン(クレメンティ編):交響曲第94番「驚愕」第2楽章
03.クープラン:クラヴサン曲集第2巻「収穫をする人たち」
04.シューマン:子供のためのアルバム「収穫の歌」
05.シューマン:子供のためのアルバム「楽しい農夫」
06.シューマン:子供の情景「トロイメライ」
07.シューベルト(リスト編):アヴェ・マリア
08.ラフマニノフ:前奏曲ト短調
09.マルチェッロ(J.S.バッハ/カツァリス編):オーボエ協奏曲第2楽章
10.メンデルスゾーン:無言歌集「春の歌」
11.シューマン:子供のためのアルバム「乱暴な騎手」
12.ショパン:前奏曲7番イ長調
13.ビゼー(ホフマン編):歌劇《カルメン》「ハバネラ」
14.ビゼー(編曲者不詳):劇音楽《アルルの女》「ファランドール」
15.作曲者不詳:アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳「メヌエット」
16.ブラームス:間奏曲第2番変ロ短調
17.モーツァルト伝(カツァリス編):バター付きパン
18.シューベルト:コティヨン変ホ長調
19.スクリャービン:アルバムの綴り
20.ベートーヴェン(リスト/カツァリス編):交響曲第9番第4楽章
21.ショパン:ワルツ第7番嬰ハ短調

Disc 3

01.マンシーニ:ピンク・パンサーのテーマ
02.サン=サーンス(ゴドフスキー編):動物の謝肉祭「白鳥」
03.作曲者不詳:アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳「ミュゼット ニ長調」
04.J.S.バッハ:ゴルドベルク協奏曲「アリア」
05.リュリ:クーラント
06.スカルラッティ:ソナタ ハ長調
07.ファリア:バレエ音楽《恋は魔術師》「火祭りの踊り」
08.オルフ(エリック・チュマチェンコ編):全世界の支配者なる運命の女神
09.シューベルト:36の独創的舞曲《最初のワルツ》ワルツ第19番
10.ショパン:練習曲 第3番 ホ短調「別れの曲」
11.ラヴェル(シャルロ編):組曲《マ・メール・ロワ》「眠りの森の美女のパヴァーヌ
12.モーツァルト:ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲」
13.ダンドリュー:小笛−ロンドー
14.シューベルト:楽興の時 第3番ヘ短調
15.ヴィヴァルディ(ファリーナ編):協奏曲集《四季》第4番「冬」ラルゴ
16.ヘンデル(ツェルニー編):オラトリオ《メサイア》「ハレルヤ」
17.J.S.バッハ(カツァリス編):管弦楽組曲第2番ロ短調「バディネリ」
18.シューベルト:36の独創的舞曲《最初のワルツ》ワルツ第35番
19.ワイル(編曲者不詳):歌劇《三文オペラ》タンゴ・バラード
20.カツァリス:アリランによる即興曲
21.カツァリス:きよしこの夜による幻想曲
22.ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 第1楽章
23.ドビュッシー:ベルガマスク組曲「月の光」
24.シューベルト:軍隊行進曲
25.ワーグナー(ブラッサン/カツァリス編):ワルキューレの騎行
26.シューマン:《ウィーンの謝肉祭の道化》間奏曲
27.プロコフィエフ:ピアノソナタ第7番変ロ長調《戦争ソナタ》 第3楽章

Disc 4

01.シフラ:熊蜂の飛行による演奏会用練習曲第1番
02.モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 第2楽章
03.J.S.バッハ(カツァリス編):トッカータとフーガ ニ短調
04.チャイコフスキー:四季 6月 舟歌
05.ブラームス(カツァリス編):ハンガリー舞曲 第1番 ト短調
06.ブラームス(レーガー編):交響曲第3番 第3楽章
07.ルビンシテイン:メロディ ヘ長調
08.ドリーブ(ドホナーニ編):バレエ音楽《コッペリア》ワルツ
09.パッヘルベル(カプドヴィーユ編):カノン
10.ショパン:前奏曲 第16番 変ロ短調
11.ボロディン:《小組曲》夜想曲
12.カツァリス:様々な主題による即興曲
13.任光(王建中編):彩雲追月
14.ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 第3楽章

Disc 5

01.ハチャトリアン(ソリン/カツァリス編):バレエ音楽《ガイーヌ》「剣の舞」
02.サティ:ジムノペディ第1番
03.フォーレ(コルトー編):組曲《ドリー》「ドリーの庭」
04.J.S.バッハ:イギリス組曲 第3番 ミュゼット ト短調
05.ショパン(ショパン編):ピアノ協奏曲第1番 第2楽章
06.シューベルト:8つのレントラー レントラー第5番
07.ブラームス:ワルツ第15番 変イ長調
08.ドヴォルザーク(カツァリス編):スラヴ舞曲ホ短調
09.ベートーヴェン:バガテル第25番イ短調「エリーゼのために」
10.マルティーニ(ビゼー編):愛の喜びは - ロマンス
11.リスト:夜想曲第3番「愛の夢」
12.メンデルスゾーン(メンデルスゾーン編):劇音楽《真夏の夜の夢》「結婚行進曲」
13.チャイコフスキー(タネーエフ編):バレエ音楽《くるみ割り人形》「花のワルツ」
14.グリーグ(グリーグ編):ペール・ギュント組曲第1番「朝の気分」
15.ロドリーゴ(ロドリーゴ編):アランフェス協奏曲「我が心のアランフェス」
16.カツァリス:ハッピー・バースデー・トゥ・ユーによる幻想曲
17.ガーシュイン(ガーシュイン編):ライザ - バーンスタイン(スミット編):ウエスト・サイド・ストーリーより3つの楽章
18.ジェッツ
19.ジャンプ
20.チャチャ
21.ヴィラ=ロボス(グセー編):ブラジル風バッハ第5番 「マリア《カンティレーナ》」
22.ピアソラ:ラ・ミスマ・ペーニャ
23.カラスコ:アディオス